大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)44号 判決 1992年8月21日

原告(反訴被告)

安川義章

被告(反訴原告)

花岡圭介

主文

一  別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する損害賠償債務は、金一六三一万六五三円及び内金一四九一万六五三円に対する昭和五九年一二月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金一六三一万六五三円及び内金一四九一万六五三円に対する昭和五九年一二月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)のその余の請求及び被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを二分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の請求

一  原告の本訴請求

別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という)に基づく原告(反訴被告、以下「原告」という)の被告(反訴原告、以下「被告」という)に対する損害賠償債務は存在しないことを確認する。

二  被告の反訴請求

原告は、被告に対し、金三五一五万四七三七円及び内金三二一五万四七三七円に対する昭和五九年一二月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原告の本訴請求は、本件事故に基づく原告の被告に対する損害賠償債務は既に支払ずみでもはや存在しないとしてその債務不存在の確認を求めるものであるのに対し、被告の反訴請求は、原告の既払額を上回る損害が生じているとして、その賠償を求めるものである。

一  当事者間に争いのない事実など

1  本件事故が発生した結果、被告は、頭部外傷Ⅱ型、外傷性頸部症候群の診断名により、恒生病院において昭和五九年一二月三〇日から昭和六二年三月一〇日までの間、入院(合計三回、延べ五四日間)と通院(実日数四二五日間)によつて治療を受け、また、視力低下と視野狭窄を理由として、芦田眼科において昭和六〇年四月八日から昭和六一年八月三一日までの間、通院して治療を受け(実日数五六日間)、さらに、勃起不全を理由として、福田泌尿器皮膚科医院において昭和六〇年九月二六日から昭和六一年八月二八日までの間、通院して治療を受けた(実日数四七日間)(争いがない)。

2  本件事故は、停止中の被告運転の普通乗用自動車に原告運転の普通乗用自動車が追突したものであり、原告の前方不注視の過失によつて生じたものであるから、原告は、民法七〇九条に基づき、被告の被つた損害を賠償すべき責任がある(争いがない)。

3  ところで、被告は、本件事故に先立つて、昭和五八年一月一八日に交通事故に遭つており(以下「前回事故」という)、その際には、頸椎捻挫による局部神経症状によつて自賠法施行令後遺障害別等級表一四級の認定を受けた(症状固定は同年七月二九日)(争いがない)。

4  本件事故による後遺障害の事前認定については、次の理由から、結果として「加重非該当」とされた(争いがない)。

(一) レントゲン写真、CT写真や脳波検査上、頭頸部に外傷性の異常は認められず、被告の神経症状についても前回事故の際の後遺障害を上回る増悪は認められない。

(二) 眼の障害は、受傷態様、経過から外傷性の障害とは捉え難い。

(三) 陰萎等については、本件事故と無関係である。

5  原告は、これまでに、恒生病院の治療費として合計一七六万九一二〇円を支払つたほか、被告に対し、休業補償名目で一日九〇六四円の割合で昭和五九年一二月三一日から昭和六〇年六月三〇日までの分として合計一六四万九六四四円を、また、昭和六一年三月一九日には賠償内容を特定せずに内払金として三〇万円支払つており、さらに、被告は、労災保険から四三三万一八八八円の給付を受けているので、以上を合計すると、被告は、本件事故による損害につき、合計八〇五万六五二円の填補を受けている(争いがない)。

6  また、被告は、平成元年六月一九日、伊丹労働基準監督署長から、本件事故による労災保険上の後遺障害の認定に関し、「頭頸部を総合して、神経学的に不随意運動、知覚異常があるため自動車運転等が困難なことがある」として、九級七の二(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当するとの認定を受けた(乙第一七及び第一八号証)。

二  本件の主たる争点

1  被告主張の症状と本件事故との相当因果関係の有無ないし割合

被告は、本件事故による受傷の結果、<1>両側大後頭神経圧痛、両肩筋緊張亢進、間歇的両側頸部腫脹、頸部運動制限、右頭部左半身の知覚低下及び異常知覚、<2>勃起不全、<3>視力低下、視野狭窄の後遺障害を残すことになつたが、<1>及び<2>の各障害はいずれも自賠法施行令後遺障害別等級表一二級一二号に、また、<3>の障害は九級一号に各該当し、以上を併合して八級に相当する旨主張する。そして、前記のとおり、被告が、労災保険上、九級七の二に該当する旨の認定を受けていることを尊重すべきである旨主張する。

これに対し、原告は、被告主張の症状と本件事故との間の相当因果関係を争い、被告の現在の症状についても前回事故によつて生じた後遺障害の程度が加重されていることはないと主張し、さらに、本件事故によつて生じた被告の損害については、前回事故による既往症が寄与しているものというべきであるから、本件事故が寄与した割合は五割にとどまる旨主張する。

2  本件事故と相当因果関係のある休業の期間

また、被告は、本件事故の翌日から症状固定と診断された昭和六二年三月一〇日までの間、治療のために休業が必要であつた旨主張するのに対し、原告は、被告の症状からみて、本件事故と相当因果関係のある休業期間は昭和六〇年六月末日までの六箇月間にすぎないと主張する。

第三当裁判所の判断

一  本件事故後の被告の症状と治療経過について

前記当事者間に争いのない事実と甲第三号証の一、二、第三ないし第六号証、乙第一号証、第二及び第四号証の各一ないし一四、第四及び第五号証、第六号証の一ないし六、第七及び第八号証、第九及び第一〇号証の各一、二、第一一号証の一ないし一〇、第一二号証の一ないし九、第一六、第二〇及び第二一号証、証人花岡千代子の証言並びに被告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告は、本件事故に遭つた昭和五九年一二月三〇日から、恒生病院において、頭部外傷Ⅱ型(びまん性脳幹挫傷)、外傷性頸部症候群との診断により通院して治療を受けたが、症状の悪化を訴え、昭和六〇年二月一日から同月二〇日までの間、同月二八日から同年三月二〇日までの間及び同年五月一四日から同月二六日までの間の合計三回にわたつて入院し(延べ五四日間)、その後も、症状固定とされた昭和六二年三月一〇日までの間通院を続けて治療を受けた(通院実日数四二五日間)。

2  右の期間中、被告は、<1>頭部痛、後側頸部痛、四肢体幹の知覚異常、四肢筋肉の痙攣、歩行時のふらつき、耳鳴り、<2>勃起不全、排尿障害、<3>視力低下、視野狭窄等、多様な症状を訴えた。

3  そして、恒生病院においては、もつぱら、被告はけん引、湿布措置、ブロツク療法等の保存的治療を受け、他覚的所見としてはレントゲン写真により頸椎の椎間板損傷がみられた程度であつたが、昭和六二年三月一〇日、<1>両側大後頭神経圧痛、両肩筋緊張亢進、間歇的両側頸部腫脹、頸部運動制限、右頭部左半身の知覚低下及び異常知覚、<2>勃起不全、<3>視力低下、視野狭窄を残すものとして症状固定の診断がされた。

4  また、被告は、勃起不全の治療のために、昭和六〇年九月二六日から福田泌尿器皮膚科医院に通院し、勃起不全、慢性尿道炎等との診断のもとで治療を受けたが、陰茎は正常であるものの勃起不全と排尿障害は改善されず、同医院において、昭和六一年八月二八日、勃起不全の障害を残すものとして症状固定の診断がされた。

5  さらに、被告は、視力低下と視野狭窄の治療のために、昭和六〇年四月八日から芦田眼科において通院して治療を受けたが、同病院においては、近視性乱視、両求心性視野狭窄、両視神経萎縮及び両高眼圧の診断を受け、本件事故前の昭和五九年八月の視力測定時には眼鏡による矯正視力が右一・〇、左〇・八であつたのが、本件事故後には同矯正視力が左右とも〇・四と低下したほか、左右の視野も本件事故前には正常であつたのが、本件事故後には右約二五度、左約二〇度の求心性視野狭窄がみられるようになり、前眼部や水晶体等には異常が認められないためこれらは視神経萎縮によるものではないかとの診断がされ、昭和六一年八月三一日には、これらの症状の改善が見込まれないとして症状固定の診断がされた。

なお、被告は、前回事故よりも前の昭和五六、七年頃から眼鏡をかけるようになつている。

6  被告は、右の期間中の昭和六〇年七月から昭和六一年五月二一日までの間については従来のタクシーの運転業務に一時従事したことがあつたが、前記2のような症状は一進一退の状態であまり改善がみられず、右運転業務に直ちに復帰できるような状態にはない。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  被告の右症状と本件事故との相当因果関係

次に、前記認定のような本件事故後の被告の症状について、本件事故との相当因果関係の有無を検討する。

1  前回事故後の被告の症状

前記当事者間に争いのない事実と甲第二号証の一、二、前記花岡千代子証人の証言及び被告本人尋問の結果によると、被告は、昭和五八年一月一八日、自家用の普通乗用自動車を運転中に追突事故に遭つて頸部挫傷の傷害を受け、眼底痛、咽頭痛、項部ないし両耳痛、後頭部痛(特に頸部の右方向への旋回時に顕著)、両上肢の三、四、五指のしびれ感及び左右の握力低下等の症状を訴えたこと、被告は、症状固定と診断された同年七月二九日までの間河津外科胃腸科に通院して治療を受け(実通院日数八三日間)、他覚的所見としては、レントゲン写真によつて頸椎に変形が認められ、頸椎の運動障害と握力低下がみられたが、その後、右の症状の改善がみられないとして、自賠法施行令後遺障害別等級表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当するとの認定を受けたこと、そして、その際の後遺障害診断書(甲第二号証の一)においては、予後の所見として、「大後頭神経痛は今後かなり長期間にわたつて残存するものと考えられる、頸椎前後屈及び回旋障害も、頸椎軟部組織の損傷がかなり高度なものであると考えられる」旨の記載がされていること、被告は、前回事故から本件事故までの間は仕事の上で支障がなく、その妻花岡千代子も、その頃の被告の症状は本件事故後のようにひどいことはなく、日常生活上特に問題はなかつた旨述べていることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そして、前記一で認定したような本件事故後の被告の症状を、右にみた前回事故後の被告の症状と対比して考えとみると、概ね後頭部や頸部の痛みと頸部の運動制限といつた点では共通するものがあるが、左半身の知覚低下及び異常知覚、勃起不全、視力低下及び視野狭窄といつた症状については、本件事故後に初めて生じたものといわざるを得ない。

そこで、被告主張の本件事故後の各症状について、本件事故との相当因果関係の有無を順次検討する。

3  まず、後頭部や頸部の痛みと頸部の運動制限にいては、前記花岡千代子証人の証言及び被告本人尋問の結果等によれば、その程度が本件事故後に相当増悪していることが認められ、また、新たに左半身の知覚低下や異常知覚が生じていることは前記のとおりであるから、これらの事実と恒生病院の野田医師作成の後遺障害診断書及び回答書(意見書)(甲第三号証の一、二、乙第一及び第一六号証)の記載を併せ考えると、これらの神経症状は、本件事故と相当因果関係のある後遺障害と認めるのが相当である。

そして、右の事情と前記認定のとおり被告がこれらの後遺障害につき労災保険上九級七の二の認定を受けていることも総合考慮すると、被告の右後遺障害は、神経系統の機能又は精神に障害を残し服することができる労務が相当程度制限されていると認められるから、自賠法施行令後遺障害別等級表九級一〇号に該当するというべきである。

4  次に、勃起不全について検討すると、福田泌尿器皮膚科医院の福田医師作成の後遺障害診断書及び証明書等(甲第五号証、乙第四、第五及び第二一号証)によると、これと本件事故との相当因果関係を肯定する旨の診断を下していることが認められる。また、鑑定人大橋輝久の鑑定結果によると、被告の勃起不全について、診察及び検査所見に基づき、陰茎及び精巣には異常がなく、鑑定時には七〇ないし八〇パーセントの勃起力の回復と早期覚醒時勃起現象が二、三日に一度みられるまでに回復してきており、勃起に関係する神経及び血管の障害も、また中枢神経系ないし脊髄神経系の障害もいずれも否定的であるとしながらも、被告が本件事故の結果受傷した頭部外傷Ⅱ型及び外傷性頸部症候群による頭痛、後側頸部痛、四肢体幹の知覚異常等が原因となり、さらに加齢によつて、色情勃起が起こりにくい機能的インポテンスである旨鑑定していることが認められる。

以上によると、被告の勃起不全は、心因的なものが寄与していることは否定できないものの、本件事故と相当因果関係のある後遺障害と認めるのが相当であり、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

もつとも、右大橋鑑定によると、被告の勃起不全は前記のとおり回復段階に入つており、頭痛、後側頭部痛等の治療によつて以前の状態にまで回復可能となる旨の見通しが指摘されているのであるから、これらの諸事情を総合考慮すると、被告の右後遺障害の程度は、局部に神経症状を残す程度と認めるべきであり、自賠法施行令後遺障害別等級表一四級一〇号に該当するというべきである。

5  さらに、視力低下と視野狭窄について検討すると、芦田眼科の芦田医師作成の後遺障害診断書及び証明書(甲第四号証、乙第七及び第二〇号証)によると、これと本件事故との相当因果関係を肯定する旨の診断を下していることが認められる。

ところで、鑑定人大島浩一の鑑定結果によると、被告の視力低下と視野狭窄について、前眼部、眼球、網膜や眼底部等の所見には異常がなく、視力検査(矯正視力)においては、遠見視力検査では右〇・五ないし〇・六弱、左〇・四ないし〇・六弱、近見視力検査では右〇・九ないし一・〇、左〇・七ないし〇・八と検査され、また、視野検査においては、動的量的視野検査では右二〇ないし三〇度、左二〇ないし二五度の、静的量的視野検査では右一〇ないし一五度、左約一〇度の各求心性視野狭窄が認められるとされたが、各種検査によつても眼球や視神経等の視覚伝導路には病変がみられないため、結局、これらの視力低下と視野狭窄は、器質的病変によるものではなく、被告のヒステリー又は詐病によるものであり、結論として本件事故との因果関係はないと鑑定していることが認められる。

そこで、右大島鑑定を前提にして考えると、本件において、被告が詐病を用いていることを窺わせるような証拠は見当たらないから、被告の視力低下と視野狭窄はヒステリーが原因になつて生じているものと考えられる。このように心因性の反応が原因である場合においても、交通事故による外傷がいわば引き金となつてその心因性反応を生じさせたのであれば、交通事故と右のような症状との間の相当因果関係を直ちに否定すべきではないと解されるところ、本件では、前記認定のとおり被告が本件事故直後から後頭部や頸部の痛みと頸部の運動制限、左半身の知覚低下及び異常知覚、勃起不全等多様な症状を訴え、それらがその後の治療にもかかわらず容易に軽快、改善されないことが心因となつて、ヒステリーをもたらしたものということができるし、被告の場合、本件事故前には視力低下や視野狭窄の症状がなかつたのであるから、前記芦田医師の見解をも併せ考えると、被告の視力低下と視野狭窄は、本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当であり、前記大島鑑定の結論部分はこの限りで採用し難いというべきであり、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

もつとも、その後遺障害の程度については、これが右のとおり改善可能な心因性反応に基礎を置くものであり、また、前記認定のような鑑定の際の検査結果や被告本人尋問の結果に現れた視力に関する事情等を総合考慮すると、局部に神経症状を残す程度と認めるべきであり、自賠法施行令後遺障害別等級表一四級一〇号に該当するというべきである。

6  ところで、前記1で認定したとおり。前回事故の際に、既に頸椎の変形がみられ、頸椎軟部組織の損傷がかなり高度なものと診断されていた上、大後頭神経痛はかなりの長期間にわたつて残存するとみられていたこと、さらに前回事故と本件事故との間の時間的間隔、症状の重複の程度等を考えると、前回事故による既往症が前記認定の被告の後遺障害の発生と増悪、拡大に寄与していることは否定し難いが、他方、本件事故前には前回事故による症状が相当改善され、仕事や日常生活上さしたる支障がなくなるに至つていたことは既に認定したところであるから、この既往症を原告主張のように過大に評価するのは相当でないし、さらに、被告の後遺障害には前記のとおり心因的なものが寄与していることも考慮すると、本件事故が被告の被つた損害に対して寄与した割合は全体として八割とみるのが相当であり、この限度で相当因果関係を認めるべきである。

三  原告の賠償責任と被告の損害

1  原告が、民法七〇九条に基づき、被告の被つた損害を賠償すべき責任を負うことは当事者間に争いがないところ、本件事故と相当因果関係があるというべき損害は次のとおりである。

2  治療費 合計三五四万九四八七円

(一) 恒生病院分

乙第三号証の一ないし一四及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件事故当日から昭和六〇年八月末日までの治療費として一七六万九一二〇円を要し、その後昭和六二年三月一〇日までの治療費として一三三万二八〇七円を要したことが認められ、以上を合計すると、三一〇万一九二七円となる。

(二) 福田泌尿器皮膚科医院

乙第六号証の一によると、二万六三七〇円を要したことが認められる。

(三) 芦田眼科

乙第九号証の一、二、第一一号証の一ないし一〇、第一二号証の一ないし九によると、四二万一一九〇円を要したことが認められる。

3  入院雑費 五万四〇〇〇円

被告は、恒生病院において合計五四日間入院したが、その間の雑費としては一日一〇〇〇円の割合でこれを損害と認めるのが相当である。

4  通院交通費 合計二六万二四四〇円

被告が、恒生病院に四二五日間、福田泌尿器皮膚科医院に四七日間、芦田眼科に五六日間それぞれ通院したことは当事者間に争いがなく、また、弁論の全趣旨によると、その往復のバスや電車等の料金は被告主張のとおりと認められるから、これを次の算式により計算して合計すると、二六万二四四〇円となる。

四四〇(円)×四二五=一八万七〇〇〇(円)

一二〇〇(円)×四七=五万六四〇〇(円)

三四〇(円)×五六=一万九〇四〇(円)

5  休業損害 二九七万七五二四円

まず、甲第七号証の二によると、被告の一日当たりの収入は、九〇六四円と認められる。

次に、被告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、被告は、本件事故の翌日から症状固定と診断された昭和六二年三月一〇日までの間の八〇〇日間のうち、昭和六〇年六月末日までの一八二日間は全く稼働できなかつたが、同年七月一日から昭和六一年五月二一日までの間の三二五日間については従来の勤務先でタクシーの日勤業務に就いたことが認められるから、この期間については休業損害を認めるべきではない。さらに、右のように一応勤務可能な状態にまで一時期回復したことを考えると、その後症状固定日までの二九三日間については、全額の休業損害を認めるべきではないと考えられ、五割の限度でこれを本件事故による休業損害と認めるのが相当である。以上のところから、次の算式により計算して合計すると、二九七万七五二四円となる。

九〇六四(円)×一八二=一六四万九六四八(円)

九〇六四(円)×〇・五×二九三=一三二万七八七六(円)

6  逸失利益 一三三五万八一八一円

被告の後遺障害については、前記二の3ないし5で認定、判断したところを総合すると、全体として自賠法施行令後遺障害別等級表九級相当の後遺障害が残つたものというべきであり、また、被告はこれによつて三五パーセントの労働能力を喪失し、その期間は症状固定時(五一歳)から六七歳までの一六年間にわたるものと認められるから、被告の前記一日当たりの収入である九〇六四円を基礎とし、中間利息の控除につき新ホフマン係数を用いて逸失利益を計算すると、次の算式により一三三五万八一八一円となる。

九〇六四(円)×三六五×〇・三五×一一・五三六三=一三三五万八一八一(円)

7  慰謝料 合計八五〇万円

まず、受傷による入通院慰謝料としては、前記のような傷害の部位、程度及び治療経過、入通院期間等の諸事情を勘案すると、二五〇万円が相当である。

次に、後遺傷害による慰謝料としては、前記のような後遺障害の部位と程度、被告の心因性反応によるものがあることや被告の現在の生活ぶり等の諸事情を総合勘案すると、六〇〇万円が相当である。

8  本件事故の相当因果関係の割合

以上の損害を合計すると、二八七〇万一六三二円となるが、前記二の6で述べたとおり、本件事故の相当因果関係の割合を八割と認めるべきであるから、これに基づいて計算すると、損害額は二二九六万一三〇五円となる。

9  損益相殺

また、被告が本件事故の損害につき合計八〇五万六五二円の填補を受けていることは前記のとおり当事者間に争いがないから、これを前記損害額から控除すると、一四九一万六五三円となる。

10  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟経過や認容額等を勘案すると、本件事故と相当因果関係があるとして賠償を求め得る弁護士費用の額は、一四〇万円と認めるのが相当である。

四  結び

以上によれば、被告は、原告に対し、金一六三一万六五三円及び内金一四九一万六五三円に対する昭和五九年一二月三〇日(不法行為日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきであるから、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はこの限度をもつてそれぞれ一部理由があり、かつ、その余の部分は失当ということになる。よつて、民事訴訟法八九条、九二条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

交通事故目録

一 発生日時 昭和五九年一二月三〇日午後二時三〇分頃

二 発生場所 大阪府池田市空港一丁目七番一五号先路上

三 加害車両 原告(反訴被告)運転の普通乗用自動車

四 被害車両 被告(反訴原告)運転の普通乗用自動車

五 事故態様 被告(反訴原告)車両が信号待ちのために停車中、後方から進行してきた原告(反訴被告)運転車両が追突。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例